第2次大戦末期のビジュアルマーチャンダイジング

ビジュアルマーチャンダイジング(和製略語VMD)という語の出現は、第2次大戦末期1944年にアメリカのディスプレイ業者(display manufacturer) アルバート・ブリス(Albert Bliss)氏によると伝えられる。表現する語は同一でも、戦時のビジュアルマーチャンダイジングは、今日のそれと同様のものとは考えにくい。マーケティング、マーチャンダイジング(MD)は時代と共に変化連動、ビジュアル表現の役割と方法も移り変わる。
第2次大戦後において、量的充足、大量生産、大量販売の時代に対応したビジュアルマーチャンダイジングとその後生産と消費が変化した時代のビジュアルマーチャンダイジングとは差異がある。ビジュアルマーチャンダイジングはディスプレイとは異なりそれまでのディスプレイという概念では対応できず新たに造語の必然が生じた。そして新語が広く了解され普及をした。
当時のディスプレイ専門誌などの小売店の写真では、ショウウインドウのテーマやデザインが注目され、今日のビジュアルマーチャンダイジングでは重視される店内と店内ストック部分の表現は関心の対象外。その時代の店内は往々にして「倉庫」のような様相を呈し「店」の英仏語語源同様。それは今日的な快適とはほど遠いものであった。

1960年代のビジュアルマーチャンダイジング

第2次大戦後の大量生産大量消費に続き、1960年代のアメリカにおいてライフスタイルに根ざしたマーチャンダイジング(MD)が生まれた。そのディスプレイはMDを反映して商品同士の「コーディネーション」が必要であり特色。ディスプレイのテーマは、それまでの年間行事やニューファッション、ファンタジーなどをモチーフとするのとは異なり生活のスタイルをとりあげた。
アメリカはニューヨークの「オーバックス百貨店」(右欄に写真)、「サックス」のディスプレイは見事にクラスに対応したものとして注目された。移民法制定の時代背景が示すように、それぞれのクラスとライフスタイルを考慮したMDとVMDが隆盛になる。しかしディスプレイデザインのレベルは、創造性、技能、バラエティともにヨーロッパが優位。スイスでディスプレイの専門誌「インスピレーション」が創刊され国を越えて歓迎された。デュッセルドルフで、国際店舗ディスプレイ見本市「ユーロショップ」が創設される。
日本でも景気の上昇にともない、パリやロンドンのファッションが支持され、マネキンの技術導入やミニスカートなど特定のファッションに対応したモデルを開発。
衣服のディスプレイ技術はフランスやスイスから導入され一気に普及。ビジュアルマーチャンダイジングは、アメリカでの略語VMから日本ではVMDと変形して報じられるようになった。VMDの到来の前にマーチャンダイジングがMDと略されて普及していた背景が要因といえる。

1970年代のVMD

アメリカの百貨店の復活は、新時代のMDと共にVMDという仕組みと方法によった。そのルーツはヨーロッパ。VMDという概念は言語化されていなかったが、ディスプレイの機能拡張でいわばVMDが1960年代のチューリッヒは「グローブス百貨店」(右欄に写真)とロンドンの「ハビタット」では日常的に実施されていた。MD、販売、広告、商品プレゼンテーションが密接に連携して、成果をあげ世界中から関係参観者を集めた。
後日グローブスの元幹部 Emil A.Senn 氏が1988年アメリカにおけるワールドストアのセミナーの講演で、ビジュアルマーチャンダイジングと言語化がされていなかったが正しくビジュアルマーチャンダイジングであったと述懐をした。
ショウウインドウだけでなく店内の商品プレゼンテーションがMDと“車の両輪”となった。表現のアイディア、デザイン、テクニック、スキルの専門教育が熱心に探求された。
アメリカでは「メーシー百貨店」(右欄に写真)「サックス」(右欄に写真)などのデコレーション、ディスプレイ部がビジュアルマーチャンダイジング部と改称して時代を反映。1979年には、米国百貨店奇跡の復興としてVMDをニューヨークタイムズが紹介。倉庫のようだった売場が、楽しい劇場のように様変わり。時代の要請の迅速な買い物を、分かりやすい分類、見やすい商品、選びやすいコーディネーションで実現、エンタテインメント性も魅力と賛美された。
日本では1972年に店舗関連見本市「ジャパンショップ」(右欄に写真)が創設され、専門家はもとより地方の商店主がバスを仕立てて団体で参観した。

1980年代のVMD

VMDにより復活したアメリカの成功例に刺激され、この年代にアメリカで発行されたVMD関連の主要な書籍は8冊に及ぶ。日本でもVMDを標榜する図書出版は6冊の隆盛をみた。
台湾や韓国では日本人著者の出版物が2冊連続して翻訳出版された。中国語版は版を重ねて中国語圏の関心の高さを示す。
日本では列島改造論による地価、物価の高騰と2度の石油ショックにも関わらず消費は活気があった。女性の社会進出が進み、万事スピードアップが求められソーシャルスピードは拍車がかかった。迅速なビジュアルコミュニケーションは必須となりスピーディなショッピングをVMDで追求した。
海外のベネトン、「エスプリ」(右欄に写真)、GAPなど多国籍の製造小売業は国際的に通用する視覚的なVMDのコミュニケーションを開発して積極的に多店舗化した。カラーはエスペラント語と位置づけたSPA(製造小売り業)は、カラーのMDとVMDを追求。ルーブル美術館(右欄に写真)に連なった地下のショッピングセンターにも出店した。
EUの実現に伴いグローバルとローカルのディスプレイ表現の変化が注目された。ドイツで開催される店舗関連見本市「ユーロショップ」は、VMDをキーワードに関心を集めた。1987年には「日本ビジュアルマーチャンダイジング協会」が創立会員99名により設立された。同年に厚生労働省(元労働省)による「商品装飾展示技能検定」が開始された。

1990年代のVMD

日本ではバブルの時代を経てマーケティングやマーチャンダイジングが問い直される。VMDは日常的なものになり、それぞれのMDに合わせて体系化を指向するVMDが開発されていった。ITと連動して運用技術が更に精密化したので、いわば科学的に思考された戦略的側面も強調される。
グローバルにラグジュアリーブランドが多店舗出店をするにつれそれらのブランドは統一イメージ、統一オペレーションの必要性が発生。ラグジュアリーブランドは、ヨーロッパのクリエーション、アメリカのマーケティングと喧伝される。それぞれマーケティング、マーチャンダイジングの組織と制度を整えてVMDの専門家を採用。日本でもVMDの専門家の求人が新聞広告にたびたび掲載された。VMDの専門家に求められる創造性と表現技術と共に、求められるスキルはパソコンにも及ぶ。
百貨店の業態発想に、分類とゾーニングというヒントと発展を与えたパリで開催されたパリ万国博から約1世紀余を経た1993年、当時と同じ建物のパリのグランパレで「デザイン・世紀の鏡」展(右欄に写真)が開催された。デザインというアングロサクソンの概念が、クリエーションを尊重してきたパリで展開されたのもグローバル化の現象の一つ。クリエーションとデザインを再考する機会となった。

2000年代のVMD

コンピュータによる情報技術の革新は、MDとVMDを更に精度の高いものにした。店舗関連見本市「ユーロショップ」(右欄に写真)でも、MDとVMDを切り口の出展品は注目度が高まる。
情報技術を駆使してどのようなビジュアルを着想していくか。月並みでなく心地よい刺激を与える創造性はどうあるべきか。科学性を追求したあまり同質、無機質なビジュアル表現に偏重しがち。そのため差異と潤いそして人間性を配慮する手だてを模索する。
VP表現のインパクト、サプライズ、インプレッションがMDと連ねて追求される。社会を反映したアイディア、現代美術のようなマネキンが注目を集める。
国際コミュニケーションを図るためのVMDの開発が急進。高齢者を意識したコミュニケーションも必要不可欠となる。デザインやデザイン情報は国境を越えて受信発信、瞬時に伝達して消化される。これまでVMD後進の地域で先端のVMDツールやマネキンの製造が行われ利用が始まる。
自然、環境への関心から自然史博物館などの人気が世界各地で高まり「ミュージアムショップ」(右欄に写真)も博物館売店からリニューアルして魅力的になる。
エコロジー、リサイクル、リユース、ユニバーサル、ユビキタスがキーワードとして浮上。クリエーション、デザインなどビジュアル表現の専門家養成のあり方も一斉に見直し時代となる。

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第2次大戦前から現在までの関連キーワード

オーバックスは小柄なサイズを充実。サイズに力点をおいたMDと身近な価格のパリファッション。高級イメージづくりに注力した。当時日本では新聞・雑誌広告のお手本ともなった。広告代理店はDDB

いまや伝説のチューリッヒのグローブス店内

先進の商品政策、販売政策、名うての専門家を擁した商品ディスプレイに注目が集まる。三位一体を学びに世界中からグローブス詣でをした

1978年第7回ジャパンショップ。東京晴海が会場

明瞭で洗練されたVMDは一世風靡。エンタテインメント性とメーシーマジック

R・ベンジオ率いたサックスVMDクルーの洗練。カラーリングのセンスはニューヨークの華

先進気鋭店で話題。ルーブル連結地下SCとピラミッド。設計は中国系アメリカ人のペイ氏

エスプリ社長は「カラーは国際語」である

100年前の万博会場でデザイン・世紀の鏡展

博物館売店からミュージアムショップのVMD

2002年のユーロショップ。キーワード「VMD」は毎回重要なテーマ。3年に1度、2005年.2008年初春にドイツのデュッセルドルフで開催。次回は.2011年初春の予定


更新項目ビジュアルマーチャンダイジングとVMDとVMVMD前後左右VMD関連情報収集術-1 ユーロショップ編ショーウインドウ西東
ショーウインドウアラカルト商品ディスプレイ技能検定西東MPダイアグラムショーアンドテルビジュアル東西南北
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